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東京地方裁判所 昭和63年(ワ)17513号 判決 1991年3月11日

東京都中央区日本橋浜町三丁目一五番一号

原告

株式会社ノバ

右代表者代表取締役

丸谷健

右訴訟代理人弁護士

石川順道

右輔佐人弁理士

井上清子

亀川義示

大阪市西成区岸里三丁目七番一号

被告

岩澤産業株式会社

右代表者代表取締役

橡尾徳次

大阪市東区南久宝寺町二丁目六一番地

被告

株式会社サンライズ貿易

右代表者代表取締役

大藪正晴

右両名訴訟代理人弁護士

村林隆一

松本司

今中利昭

吉村洋

浦田和栄

森島徹

豊島秀郎

辻川正人

東風龍明

右輔佐人弁理士

津田直久

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  原告の請求

一  被告岩澤産業株式会社は、別紙目録記載の汗取バンド(以下「被告製品」という。)を、業として、製造し、譲渡し、又は譲渡のために展示してはならない。

二  被告株式会社サンライズ貿易は、被告製品を、業として、譲渡し、又は譲渡のために展示してはならない。

三  被告らは、その所有する被告製品を廃棄せよ。

四  被告らは、原告に対し、連帯して一〇〇〇万円を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告において、被告らの被告製品を製造販売等する行為が原告の本件意匠権(本判決添付の意匠公報記載の意匠権。その登録意匠を「本件意匠」という。)を侵害するものであるとして、その差止め及び損害賠償の支払いを求め、これに対して、被告らにおいて、先使用による通常実施権を主張している事案である。

一  争いのない事実

1  原告は本件意匠権を有している。

2  被告岩澤産業は、業として、被告製品を製造し、これを「ポニー」、「パイルポニー」又は「リングパイル」の商品名で販売し、被告サンライズ貿易は、業として、被告岩澤産業から、被告製品を購入し、販売している(但し、被告製品の形状が別紙目録の図面のとおり表示されるか否かについては争いがある)。

二  争点

1  意匠に係る物品の相違

原告は、被告製品は汗取バンドであるから、本件意匠権の意匠に係る物品と同一であると主張し、これに対し、被告らは、被告製品は髪を束ねる女性用のヘアーバンドであって本件意匠権の意匠に係る物品とは異なるから、被告らの行為は本件意匠権を侵害しないと主張する。

2  意匠の類否

3  先使用による通常実施権

被告らは、被告岩澤産業が本件意匠の意匠登録出願の時より前に試作品を製作し、その後引き続き同一意匠の被告製品を製造販売しているから、先使用による通常実施権を有していると主張し、これに対し、原告は、試作品の製作は「事業の準備」に当たらないし、仮に当たるとしても、被告岩澤産業は新道繊維工業株式会社から指示されるまま、その手足となって製作したから「事業の準備をしている者」に当たらず、被告岩澤産業は先使用による通常実施権を有していないと主張する。

第三  争点に対する判断

一  仮に被告製品が本件意匠権の意匠に係る物品である汗取バンドであって、被告製品の意匠が本件意匠に類似するものであるとしても、次のとおり、被告岩澤産業は、本件意匠を知らないで、自ら被告製品の意匠の創作をし、又は被告製品の意匠の創作をした者から知得して、本件意匠の意匠登録出願の際現に日本国内において被告製品の意匠の実施である事業又はその事業の準備をしていたものであるから、本件意匠権について通常実施権を有するものというべきである。

1  証拠(以下別個に掲げたもののほか、証人小川及び平井)によれば、

(1)被告岩澤産業は、昭和五九年三月三〇日、新道繊維工業から、「リングパイル」なる名称の製品の試作の依頼を受けた(乙一の一)が、その依頼書には被告製品とほぼ同一の意匠の製品の見本が添付されていた、(2)被告岩澤産業は、以前からの取引先であり、平井靴下という商号をもって靴下等の製造業をしている平井清博にこの見本を渡して試作品の製造を依頼した、(3)平井は、被告岩澤産業の指示に従って試作品を製作した、(4)被告岩澤産業は、同年五月二〇日ころ、平井から試作品の納入を受け、これを新道繊維工業に納入した、(5)この当時、被告岩澤産業は、本件意匠を知らなかった、(6)被告岩澤産業は、同年六月三〇日、新道繊維工業から、この製品の製造について正式の注文を受け(乙一の二)、このときも下請けとして右平井にこの製品を製造させたうえ、これを同年七月二七日及び八月二日に新道繊維工業に納入した(乙五一の三、五六の二、六一の二、六二の二並びに六三の二及び三)(以上につき乙六五)、(7)被告岩澤産業は、それ以降現在に至るまで、継続して被告製品を下請けである平井に製造させたうえ(乙五一の三、五二の三、五三の二、五四の二及び五五の二)、これを被告サンライズ貿易やその他第三者に譲渡している(乙五六の二、五七の二、五八の二、五九の二及び六〇の二)、(8)右試作品及び正式発注に係る製品から現在の被告製品に至るまで、被告岩澤産業の製造販売する製品は、同一の意匠である、以上の事実が認められる。

右認定事実によれば、被告岩澤産業は、原告が本件意匠の意匠登録出願をした昭和五九年五月二八日当時、本件意匠を知らないで、被告製品の意匠の創作をし、又は被告製品の意匠の創作をした者から知得して、現に日本国内において被告製品の意匠の実施である事業の準備をしていたものということができ、かつ、それ以降現在に至るまで、同一の態様で被告製品の製造販売を行ってきたものと認められる。

右の点に関して、原告は、試作品の製作は「事業の準備」に当たらないし、仮に当たるとしても、被告岩澤産業は新道繊維工業から指示されるまま、その手足となって製作したから「事業の準備をしている者」に当たらず、被告岩澤産業は先使用による通常実施権を有していないと主張するが、前記認定事実によれば、本件における試作品の製作は、被告製品の製造販売の「事業の準備」に当たるというべきであるし、また、本件意匠の意匠登録出願当時、被告岩澤産業は、被告製品の製造販売の「事業の準備をしている者」に当たるというべきであって、原告の右主張は採用することができない。

2  被告サンライズ貿易の行為は、右のとおり先使用による通常実施権を有し、適法に被告製品の製造販売をすることができる被告岩澤産業から、被告製品を購入して販売しているものであるから、本件意匠権の侵害を構成しないものというべきである。

二  したがって、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

(裁判長裁判官 一宮和夫 裁判官 若林辰繁 裁判官 長谷川浩二)

物件目録

別紙図面の形状の汗取バンド

別紙図面

<省略>

底面図は平面図と、背面図、左右側面図は正面図と同一にあらわれる。

日本国特許庁

昭和62年(1987)11月11日発行 意匠公報(S) B2-52

717528 意願 昭59-54270 出願 昭59(1984)5月28日 前実用新案出願日援用

登録 昭62(1987)7月30日

創作者 丸谷健 東京都中央区日本橋蠣殻町2丁目15番9号

創作者 柳沢武典 大宮市大字東新井710番地の50(25-402)

意匠権者 株式会社ノバ 東京都中央区日本橋浜町3丁目15番1号

代理人 弁理士 井上清子 外1名

審査官 伊勢孝俊

意匠に係る物品 汗取バンド

説明 底面図は平面図と、背面図、左右側面図は正面図と同一にあらわれる。

<省略>

意匠公報

<省略>

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